オトナ帝国ヤバイ。(ネタバレ含む)

やっとこれをみる。ホントウによくできた映画だと思う。
懐かしい世界。憧れてしまう過去の世界。昔見た世界であって今はない世界。過ぎ去った時間が溢れる世界。アニメーションという擬似世界であるからこそ、実写にはありえない日常の風景を映像にすることができる。既に過去はなく、今があるとしても、イメージの中に過去は存在する。
今流れるどんな白黒映像が昔を思い浮かばせても、回帰したいとは思わない。それは、その時代の日常を構成したわずかな一部であり、全体を表すには、テレビに映された、箱の中の世界ではなく、テレビという家電を含めた日常の風景が足りないからだ。
しかし、この作品は、ひろしたち大人が戻りたがっているという描写があり、実際に70年代を忠実に表現した世界がキャラクターたちの五感全てに訴えかけている。究極的な世界の再現だ。懐かしいどころではなく、今まさに、その時代に帰ってきたかのようにさえ感じるはずだ。あの道、この道、歩く先々が切れ目なく、庶民的に世界が続いていく。見慣れた世界が、移動するたびに補完されていく。そしてなにより、匂いがある。匂いの描写は、ひろしの靴の描写によって、映像的に補われる。足の匂いという家族の内輪ネタであり、子供の頃はなかった匂いでもある。そこがキーポイントであり、この作品のすばらしい着目点だと思う。
過去体験したイメージが視覚80%以上で入力されたものだとしても、心的な面への影響は嗅覚が勝っているような気がする。過去を構成するのは、匂いなのかもしれない。